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独立系FP 福嶋淳裕のブログ

国内債券投資「代替」としての個人向け国債

分散投資を説明する文脈において、「資金を、国内株式, 外国株式, 国内債券, 外国債券の4つの資産に25%ずつ分散して投資していたら...」などのような例示を見聞きしたことがある方も多いと思います。
株式と債券はもっとも伝統的な資産であり、「本来は」分散投資で外せない投資対象です。

今回は国内債券投資と個人向け国債について書きます。

なお、外国債券(日本を除く先進国や新興国の債券)については別の機会に取り上げます。

 

 

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1. 国内債券の投資環境

前回、「国内債券に投資しづらい状況が続いています」と書きました。
脚注で補足したように、前回の記事における「国内債券」は、狭義には「日本の公社債国債社債など)およびこれらを組み入れて機関投資家向けに組成されたファンド」を意味しており、「NOMURA-BPI総合」が代表的な指数(ベンチマーク)です。
また、前回の記事はGPIFまたは年金基金が主語でしたので、「個人投資家向けの国債」の存在は無視しています。

今回の記事は、主語を個人投資家に戻します。

個人投資家が国内債券に投資する場合、
(1) 個別の国債社債(自身によるアクティブ運用)
(2) アクティブ型の投資信託
(3) NOMURA-BPI総合に連動するインデックス型の投資信託
などが考えられます。

仮に、

  • 市場全体の値動きで十分である
  • 複利効果は期待したい
  • ネットで少額から購入でき、積み立ても容易であって欲しい
  • 投資信託であれば、低コストであって欲しい
  • 個別銘柄ごとの満期は気にしたくない(管理したくない)

といった考えに近い方であれば、上記の3つの中では(3)、かつ、コストが低く、分配の実績がないものを選択して購入することが合理的といえるでしょう(私も以前はそうしていました)。

ただし、足元の数年に関しては、以前に比べて、NOMURA-BPI総合に連動する投資信託をすべて解約した人、積み立て対象から外した人、要するに「NOMURA-BPI総合に連動する資産を持つ(または、増やす)のをやめた人」が増えたのではないでしょうか(私もその一人です)。

理由は日本銀行の金融政策に起因する金利水準によるものであり、前回書いたとおりです。

NOMURA-BPI総合は日本の公社債国債社債など)の動向を表す代表的な指数です。
財務省は、NOMURA-BPI総合の組み入れ対象となる「普通の国債」のほかに、NOMURA-BPI総合の組み入れ対象にならない「個人投資家向けの国債」も発行しています。

足元の金利水準において、NOMURA-BPI総合に連動する資産を持つ(または、増やす)べきではない、とするならば、NOMURA-BPI総合に必ずしも連動するわけではない「個人投資家向けの国債」は投資対象としてどうなのか? 国内債券投資の代替手段になりうるのか? 私見を交えながら確認していきましょう。


2. 個人投資家向けの国債

個人投資家向けの国債には「新窓販国債」と「個人向け国債」があります。

「新窓販国債」の特徴

  • 取扱金融機関の窓口でしか購入できない
  • 固定金利型のみ(満期は 2年, 5年, 10年の3種類)
    ただし、「2年」「5年」は最近発行されていないので、実質「10年」のみ
  • 購入後、いつでも売却できる
  • 満期前に売却する場合、市場金利が購入時よりも高く(低く)なっていると、売却損(益)が発生する

「個人向け国債」の特徴

  • 大手ネット証券でも購入でき、特定口座で保有できる
  • 固定金利型(満期 3年, 5年)だけでなく、変動金利型(満期 10年)もある
  • いずれも下限利率(保証金利)0.05%
  • 購入後、1年間は売却できない
  • 満期前に売却する場合、換金金額から、「直前2回分(つまり1年分)の各利子(税引前)相当額 × 0.79685」の額が差し引かれる
    満期まで保有しても、満期前に売却しても、損失が発生しない商品設計


今、「新窓販国債」を買うべきか?

上記「個人投資家向けの国債」2種類のほかにも個人が購入できる国債はありますが、「個人向け国債」以外の国債(「新窓販国債」を含む)は、満期前に売却する場合、市場金利が購入時よりも高くなっていると、売却損(元本割れ)が発生します。

足元の金利水準は歴史的に最低の水準ですので、これからさらに下がるというよりは、徐々に戻す(上がる)可能性のほうが高い、つまり、満期前に売却することになった場合、売却益が発生するというよりは、売却損が発生する可能性のほうが高い、と考えられませんか?

そう判断するならば、個人投資家向けの国債であっても、「新窓販国債」は(今は)買うべきではないということになります。

また、「新窓販国債」には、発行時の利率が満期まで変わらない固定金利型しかありません。

しつこいですが、足元の金利水準は歴史的に最低の水準ですので、これからさらに下がるというよりは、徐々に戻す(上がる)可能性のほうが高い、つまり、現在の低い市場金利で利率を「固定」してしまうよりも、保有期間中に市場金利が上がった場合にある程度連動して利率が上がる「変動」タイプを選ぶほうが合理的である、と考えられませんか?

そう判断するならば、ここでも、「新窓販国債」は(今は)買うべきではないということになります。

今、「個人向け国債」を買うべきか?

個人投資家向けの国債のもう一つである「個人向け国債」には、発行時の利率が満期まで変わらない固定金利型のほか、半年ごとに利率が変わる変動金利型があります。

しつこいので一部省略しますが(笑)、足元の金利水準は歴史的に最低の水準ですので -略- 現在の低い市場金利で利率を「固定」してしまうよりも、保有期間中に市場金利が上がった場合にある程度連動して利率が上がる「変動」タイプを選ぶほうが合理的である、と考えられませんか?

そう判断するならば、「個人向け国債」であっても、「固定3年」と「固定5年」は(今は)買うべきではないということになり、消去法的に「個人向け国債(変動10年)」が残ります


足元の金利水準において個人が国債の購入を検討する場合、「個人向け国債(変動10年)」しか選択肢がない、といってよいのではないでしょうか。


3. 国内債券投資「代替」としての個人向け国債

ここまでの流れは、

  • 足元の金利水準においては
  • NOMURA-BPI総合に連動する資産は持つ(または、増やす)べきではない
  • 個人投資家向けの国債を購入する場合、「個人向け国債(変動10年)」しか選択肢がない

という要旨でした。


「個人向け国債」には価格変動リスク(元本割れ)がなく、唯一の制約は「買ったら1年間は換金できない」という限定的な流動性リスクだけです。
「個人向け国債(変動10年)」を身近な金融商品に例えると、「市場金利の変化に応じて半年ごとに適用金利が見直される10年定期預金(利子の受け取りは半年ごと。最初の1年は中途解約不可。1年経過後に中途解約するときの手数料は、直前1年分の利子相当額)」といったところでしょうか。

銀行の定期預金金利と比べると、次のとおりでした(2018年10月10日現在)。

  • 私の生活資金口座がある四大銀行の定期預金:0.01%
  • 私の投資資金口座があるネット銀行の定期預金:0.02%
  • 個人向け国債(ここ数年):0.05%
  • 個人向け国債(2018年秋):変動10年のみ 利率が戻り(上がり)始めた!(「第101回 2018年9月18日発行」で 0.09%)

 
「個人向け国債」(1年経過後)は、いつ売却しても「元本割れ」することがないという特徴を持っており、「安全資産」の代表選手といえるでしょう【元本全額が事実上保証されて、しかも必ず利子が付く = ゼロリスク & ローリターン】。
「円建ての価値は変わらないが利子が付かない1万円札の束」でもなく、「元本全額が保証されるとは限らない定期預金」でもない、珍しい金融商品です。

あとは、

  • 金利上昇局面で購入するなら「変動金利型」のほうが合理的
  • 金利下落局面で購入するなら「固定金利型」のほうが合理的

という(借金するときとは逆の)原則にしたがって選ぶだけです。


以上、「安全資産」としての「個人向け国債」の優位性をご理解いただけたでしょうか。

今なら、国内債券投資の代替として、国内債券の投資枠で「個人向け国債(変動10年)」を買うのは十分にアリ、だと思います。


なお、ポートフォリオ分析においては、NOMURA-BPI総合の過去データを使えませんので、期待リターンはご自身でざっくりと予想し、標準偏差はゼロ、他の資産との相関係数はすべてゼロ、で計算することになるでしょう。
利用するツールやサイトによっては「預金」や「現金」扱いでよいのではないでしょうか。

 


 

と、ここまで書いておきながら何ですが(笑)、私自身は、国内債券の投資枠の5~6割しか「個人向け国債(変動10年)」を保有していません。
残りのほとんどはネット銀行(証券会社連動口座)に置いています。

理由は主に次の2点です。

  • 安全資産としての優位性に文句はないが、その代償としてリターンが「ほぼ」ない(仮に1,000万円保有していても、ここ数年、1年分の利子は5,000円、税引後で4,000円を下回る 涙)。
    したがって、「ペイオフの範囲の額なら預金でもいいのでは?」という心の声に完全に対抗できない(笑)。

  • 満期前に売却できるとはいえ、国内債券の投資枠すべてを「個人向け国債(変動10年)」にしてしまうと、
    「少々まとまったキャッシュを超短期の投機目的に使い、用が済んだら元に戻したい」という自分のニーズに応えにくい。


この辺については、整理のうえ、あらためてお伝えしたいと思います。