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独立系FP 福嶋淳裕のブログ

被災直後の混乱の中での換金性(非常用資金の置き場所)

近年、大規模な災害が増えているような気がします。

被災に備える資金(このブログでは「非常用資金」と呼んでいます)は、被災直後の混乱の中での換金性(現金の入手可能性)を重視し、居住地域(または勤務地域)を営業エリアとする有店舗型の銀行の普通預金(または通常貯金)口座に置いておくべき、という趣旨の意見を見聞きしたことがあります。

今回はこれについて書きます。
なお、私自身は被災の経験はありません。

 

 

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1. 被災直後の被害の程度

被災直後の被害の程度としては、

  • 物理的な被害はないが、地域のライフライン(電気, ガス, 水道)が復旧しない

などから、

などまで、さまざまな状況があると思います。

被災後も最寄りのATMまたは金融機関の窓口が機能していて、かつ、自分のキャッシュカードや通帳・印鑑が手元にあるという、どちらかといえば幸運な状況を想像する分においては、「非常用資金は、有店舗型の銀行の普通預金(または通常貯金)口座に置いておくべき」という意見に説得力を感じます。
普段どおりに出金できるはずですから。
また、金融機関が営業している状況なら、おそらくは小売店やサービス業でも営業しているところが多いのではないかと想像できます。
もっとも、そのような状況なら、現金がなくても、電子マネーやクレジットカードで十分な気もします...(笑)。

一方、「停電が復旧しなかったら?」とか、「避難したとき、キャッシュカードや通帳・印鑑を持ち出せなかったら?」など、もう一段深刻な状況も容易に考えられますし、もっといえば、重傷を負ったり、死亡したりすることも当然ありうるでしょう。

1995年1月の阪神・淡路大震災の際は、「本人確認が取れれば、通帳や印鑑なしでの預金引き出しを可能とする」よう、金融特別措置が発令されたとのことです(これが初めての発令だったのかどうか、これよりも古い事例については調べていません... m ( _ _ ) m )。

その後、2011年3月の東日本大震災に代表される、我が国を襲った幾度もの大規模災害を経て、「被災直後の預金の引き出し事情は最近どうなっているのか?」について少し調べてみました。

 

2. 財務省日本銀行の方針

調べたところ、地震や台風などの災害で大きな被害が発生する都度、財務省日本銀行が連名で、金融機関に対し、被災者に対する金融上の措置を講ずることを要請するようになっていました。

(例:銀行・信用金庫・信用組合等への要請)

  1. 預金証書、通帳を紛失した場合でも預金者であることを確認して払戻しに応ずること
  2. 届出の印鑑のない場合には、拇印にて応ずること
  3. 事情によっては、定期預金、定期積金等の期限前払戻しに応ずること。また、これを担保とする貸付にも応ずること。
  4. 今回の災害による障害のため、支払期日が経過した手形については関係金融機関と適宜話し合いのうえ取立ができることとすること。
  5. 災害時における手形の不渡処分について配慮すること。
  6. 汚れた紙幣の引換えに応ずること。
  7. 国債を紛失した場合の相談に応ずること。
  8. 災害の状況、応急資金の需要等を勘案して融資相談所の開設、審査手続きの簡便化、貸出の迅速化、貸出金の返済猶予等災害被災者の便宜を考慮した適時的確な措置を講ずること。
  9. 休日営業又は平常時間外の営業について適宜配慮すること。また、窓口における営業が出来ない場合であっても、顧客及び従業員の安全に十分配慮した上で現金自動預払機等において預金の払戻しを行う等災害被災者の便宜を考慮した措置を講ずること。

原文は次のとおりです。
災害時における「金融上の措置」をご存知ですか? 

つい最近の事例としては、2018年9月の北海道胆振(いぶり)東部地震がありました。
このときの文書は次のとおりです。
平成30年北海道胆振地方中東部を震源とする地震にかかる災害に対する金融上の措置について

 

3. 北海道胆振東部地震直後の主要な金融機関の対応

2018年9月6日(木)午前3時に発生した北海道胆振東部地震の当日の金融機関の対応状況について探したところ、産経新聞がコンパクトに報道していました。
【北海道震度7地震】銀行、印鑑や通帳なくても引き出し、自宅復旧には貸出金利引き下げ


一般紙の報道内容を確認したうえで、主要な金融機関の報道発表をチェックしてみましょう(午前3時の地震に対して当日中に広報できなかった大手金融機関があったことには首を傾げざるを得ませんが、ここでは置いておきます...)。


四大銀行は横並びでした。
通帳や印鑑を紛失した場合、本人確認のうえ、各種の預金の払戻しに対応したようです。

三菱UFJ銀行
2018 年北海道胆振地方中東部を震源とする地震に係る「災害復旧支援資金」融資の取り扱い開始等について 

三井住友銀行
2018年9月北海道胆振地方中東部を震源とする地震に係る被災者の皆さまに対する預金等の取扱および融資について

みずほ銀行
平成 30 年北海道胆振地方中東部を震源とする地震による被災者のみなさまに対する融資および預金の取り扱いについて

りそな銀行
「平成30年北海道胆振地方中東部を震源とする地震」により被害にあわれたお客さまへの預金払い戻し等の対応について


一部の地方銀行は、通帳や印鑑を紛失した場合、本人確認のうえ、普通預金に限り 1日10万円までの払戻しに対応したようです。

青森銀行
北海道地区で発生した地震による当行の営業について

みちのく銀行
北海道における地震による当行の営業について

 

ゆうちょ銀行は一味違います。
「非常取扱い」と広報し、通帳や印鑑を紛失した場合、本人確認のうえ、ひとり20万円まで各種の貯金の払戻しに対応したようです。
平成30年北海道胆振地方中東部を震源とする地震にかかる災害に対する非常取扱いの実施について

 

四大銀行の払戻し上限額が見当たりませんでしたが、地方銀行の「普通預金 10万円」と、ゆうちょ銀行の「各種の貯金 20万円」を比較する限りにおいては、ゆうちょ銀行に安心感を感じました。


ただ、いずれの銀行も本人確認を必要としている点は気になります。

本人確認に運転免許証や個人番号カードなどが必要だとすると、これらを紛失していれば出金できないのかもしれません。
あるいは、氏名, 住所, 生年月日, 電話番号など、窓口での自己申告内容と金融機関側のデータとの照合などをもって、本人確認とみなしてくれるのかもしれません。

このあたりの実態は調べ切れませんでした。

 

4. とりあえずの結論(2つ)

「非常用資金」の置き場所について、とりあえずの結論として2つ挙げます。

(1) ゆうちょ銀行に20万円貯金しておく

  • キャッシュカードや通帳・印鑑を紛失しても、本人確認さえできれば、ゆうちょ銀行なら20万円引き出せる(だろう)
  • 日本国内のどこで被災しようが、ゆうちょ銀行は他の金融機関よりも店舗が多く、地域による分け隔てがない(はずだ)

の2点を前向きに評価すれば、
ゆうちょ銀行に20万円貯金しておこう
20万円以外は、お気に入りのネット銀行など、好きなところに置いておこう
身分証明書は、肌身離さず携帯しよう
の3点セットが1つ目の結論です。
③はけっこうハードルが高い気がしますが、家族全員がこれらを実行すれば、より安心かもしれません。

(2) こだわらない

一方、

  • 現金(特に1万円札)を使える場面がなく、役に立たないのでは?
  • (上とは逆に)20万円ではまったく足りず、役に立たないのでは?
  • 現金を持っていなくても自衛隊は救助してくれるし、市町村は食糧を配布してくれるはず
  • あれこれ心配しても仕方ない、なるようになるさ...
  • 常に20万円(以上)を携帯していればよいのでは?

のいずれかに共感する気持ちが強ければ、特にゆうちょ銀行にはこだわらず、「非常用資金」は好きなところに置いておくというのもアリだと思います。


このテーマは、地震保険に加入するかしないかの選択に近い、その人の価値観によって判断結果が異なるテーマなのかもしれません。


ちなみに私自身は、いまのところ、(2)の下から2つ目です。
いずれは、一番下を目指したいと思います(笑)。