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独立系FP 福嶋淳裕のブログ

国内債券投資「代替」としてのソーシャルレンディング

以前、国内債券投資の代替としての個人向け国債について書きました。 

今なら、国内債券投資の代替として、国内債券の投資枠で「個人向け国債(変動10年)」を買うのは十分にアリ、だと思います。 

という結論でした。


日本銀行がマイナス金利政策を導入したのち、特段の政治力がない普通の企業の年金基金は、マイナス金利分を信託銀行から強制的に徴収されています(預金の残高が少しずつ減っていくイメージです)。

個人にとっては、「マイナスの利息」が付利されて預金の残高が減っていくことは幸いにもありませんが、ネット銀行の定期預金を選んでも、あるいは個人向け国債を選んでも、「減ることは確かにないけど、はっきりいって増えもしない」状況が続いています。 


ではどうする? 他に何かないの? が今回のテーマです。

 

 

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1. プライベートデット, ダイレクトレンディング

マイナス金利政策の導入を契機として、日本国内の年金基金全体の動きとしては、運用収益を期待できなくなった国内債券の比率を減らし、一般的にはオルタナティブ投資に分類される種類の投資を増やしてきました。

オルタナティブ投資にはさまざまな種類がありますが、近年増えてきたものの一つに「プライベートデット」と呼ばれるものがあります。
プライベートデットとは、銀行以外が貸し手となる貸付(融資, ローン)のことです。

借り手が一般事業会社である貸付に限ってプライベートデットと呼ぶ場合と、借り手をインフラストラクチャー事業者、不動産事業者、天然資源(農地・森林など)開発事業者などにまで広げてプライベートデットと呼ぶ場合とがあります。

借り手にとって、プライベートデットには、銀行による融資よりも柔軟な条件で資金調達できるというメリットがあります。

また、プライベートデットの中でも、主に中小企業を対象としたものは「ダイレクトレンディング」と呼ばれ、次の特徴を持ちます。

  • 銀行以外の貸し手による、主に中小企業への貸付である
  • 借り手の信用力が相対的に低い【信用リスクがある】
  • 流通市場がなく流動性が乏しい【流動性リスクがある】

信用リスクと流動性リスク、ファンドによっては為替変動リスクがあるものの、高い利回りを期待できることから、ダイレクトレンディングを含むプライベートデットへの投資が年金基金の間で増えてきたわけです。 

 

2. ソーシャルレンディング

現在、「国内債券(NOMURA-BPI総合)運用難時代」であることは年金基金も個人も同じです。

では、個人はどうする? 何かないの? の本題です。


ずばり、「仮想通貨」です。いえ、冗談です(笑)。


ソーシャルレンディング」をご存知でしょうか?

ソーシャルレンディング(Peer-to-peer Lending, Social Lending)とは、
『ネット上でお金を借りたい人、企業』(borrower:ボロワー)と『ネット上でお金を貸したい人、企業』(lender:レンダー)を結びつける融資仲介サービスである。

出典:フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』


上に引用した説明文で、「ネット上で」を除けば、年金基金向けの「プライベートデット」や「ダイレクトレンディング」に似ているように感じませんか?


日本国内におけるソーシャルレンディングについて、デメリットを含めて簡単にまとめると次のようになります。

  • 「借り手(お金を借りたい世界中の団体または個人)」と
    「貸し手(お金を誰かに貸して利息収入を得たい国内の個人または団体)」を
    引き合わせるサービスのことであり、インターネット上で完結する
  • 20~30社のソーシャルレンディング会社が、それぞれの得意分野に応じてファンド(案件)を商品化して貸し手を募集する
  • 貸し手をほぼ常時募集しているファンド(案件)もあれば、締め切りまでに出資金が十分に集まらず成立しないファンド(案件)もある一方で、募集開始後わずか数10秒で出資金が集まり募集終了してしまうファンド(案件)もある

  • 貸し手にとって、利回り 3~12%程度(税引前, 年利換算)を期待できるファンド(案件)が多い
  • 利息(分配金, 配当)の受け取りタイミングと元本(出資金)の償還タイミングは、ファンド(案件)によって異なる(毎月, 毎四半期, 満期一括など)

  • 借り手の貸し倒れや延滞、ソーシャルレンディング会社の倒産などがありうる(信用リスクがある)
  • 貸し手は、1口 数万円から出資できる(信用リスクを分散させやすい)

  • 運用期間 数ヶ月~3年程度のファンド(案件)が多い
  • 借り手の希望による早期償還がある(期待どおりの利息を得る前に運用が終了することがある)反面、貸し手の希望による中途解約はできない(流動性リスクがある)

  • 借り手が海外の案件など、ファンド(案件)によっては為替変動リスクがある

  • 貸し手が個人の場合、利息(分配金, 配当)を受け取った時点で所得税20.42%(復興特別所得税含む)が源泉徴収(天引き)されている
  • 利息(分配金, 配当)は所得税法上「雑所得」であり、原則、確定申告が必要
    (分離課税ではなく総合課税なので、その年分の総合課税の所得金額によって、源泉徴収された所得税が還付される人もいれば、源泉徴収では足りずに所得税を追徴される人もいる
    高所得者であるほど、利息(分配金, 配当)にかかる税金は高くなる
  • 雑所得は、その年分の所得税だけでなく、翌年に決定される住民税や(人によっては)社会保険料にも影響する


イメージできたでしょうか?

最後に挙げた税金面の特徴は、仮想通貨と同じように、ソーシャルレンディングが「新参者」扱いであることが強力に伝わってきます(笑)。

余談ですが、金融商品ごとに異なる複雑かつ不公平な税制については、私個人は「税率20.315%の分離課税への一本化」をかねてから希望しています。

 


 

上記の特徴を踏まえ、いま現在、「一定の方々には、ソーシャルレンディングはおすすめしてよい金融商品かもしれない」と私は考えています。

「一定の方々」とは、たとえば次のような方です。

  • 貯蓄済みの「非常用資金(失業や被災など、非常時・緊急時に備える資金)」と「使用予定資金(10年以内に使う予定がある資金)」を合計すると数百万円以上あり、全額を預金口座に置いておくのはもったいない(預金の一部を有効活用したい)と思っている
  • とはいえ、投資信託など、リスク資産への投資は、「非常用資金」「使用予定資金」の位置づけと相反するので行いたくない(リスク資産には別枠で十分に投資している)
  • しかしながら、足元の金利水準では、個人向け国債にも魅力を感じない
  • 預金の全額ではなく一部を割り当てるだけなので、1〜2%程度の貸し倒れ  <*脚注1>  や、中途解約できないリスクは許容できる *1

いかがでしょうか? 


この記事のタイトルに戻り、国内債券投資の代替としてソーシャルレンディングを考えると、ソーシャルレンディング投資は、次にように整理できます。

  • 国債(個人向け国債を除く)」「社債」などと異なり価格変動リスクがなく、「国債(個人向け国債を除く)」「社債」よりも高い利回りを期待できる反面、高い信用リスク(貸し倒れリスク)と流動性リスク(中途解約できないリスク)を負う(ファンドによっては為替変動リスクも)

  • 「個人向け国債」と同じく価格変動リスクはなく、「個人向け国債」よりも高い利回りを期待できる反面、高い信用リスクと流動性リスクを負う(ファンドによっては為替変動リスクも)


おすすめできるかどうかは、結局のところ、ソーシャルレンディング特有のリスクを許容できるかどうかだと思います。

ソーシャルレンディングのリスクについては、後日、私の事例も含めて紹介します。

 

*1:2018年1月25日現在、株式会社クラウドポートが、ソーシャルレンディング会社 23社に対して調査した結果によれば、過去3年間の貸し倒れ発生率は1.47%、とのことです。