あなたの家計は 100歳まで もちますか?

独立系FP 福嶋淳裕のブログ

後期高齢者の社会保険料の変動が激しすぎる

少し前、FPであるにもかかわらず衝撃を受けたことがありました。
恥ずかしながら、今回はそれについて書きましょう。

私の父(80代)の年金が10月に激減した! 何かの間違いでは?」というエピソードです。

父はずっと自営業でしたので、受け取れる公的年金は老齢基礎年金だけです(ちなみに公的年金は、年6回、偶数月に2ヶ月分が給付されます)。
以前書きましたが、諸般の事情により、昨年から私が父のお金の管理を代行しています。
ところが油断し、今回の事態を予測できなかったため、つい最近改善したばかりの父母世帯の家計が、再び厳しい状況になってしまいました...。

 


1. 衝撃を受けた「年金振込通知書」

(1) 2018年6月版

まず、父宛てに日本年金機構から届いた「年金振込通知書」をご覧ください。
毎年6月に届く今後1年間の振込予定表です。 

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内訳を確認すると、まず、給付の額面は、

  • 老齢基礎年金:2ヶ月分 129,883円

6倍して1年分を計算すると、普段、私が人様(ひとさま)にレクチャーしている「今年度の満額 779,300円/年」と無事一致しました。

父の場合、ここから社会保険料介護保険料と後期高齢者医療保険料)が特別徴収(天引き)されます。

社会保険料が13,100円天引きされて、差し引き約116,800円だから、1ヶ月分の手取りとしては約58,400円ね」と、このときは特に何も感じませんでした(1ヶ月58,000円で生活できるのか? という話は今回のテーマではありません)。

(2) 2018年10月版

次に4ヶ月後、10月に届いた年金振込通知書をご覧ください。

社会保険料が変更されたから、その分、今月から年金の送金額が変わるよ~」というお知らせのようです。 

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父の資金繰り表を修正しなければいけないので、内訳を確認すると...

なんと!
社会保険料の大幅な引き上げにより、年金の手取り額が1ヶ月あたり約23,300円ダウンして約35,100円になる!
という衝撃的なお知らせでした。

年金の46%が社会保険料で消えていくわけです。

みなさん、いかがでしょう? 
後期高齢者医療保険料は、なぜこんなに高い、あるいは高くなるのでしょうか?
ときどき報道される市町村のミス、何かの間違いだと思いませんか?

2. なぜこんなことになったのか?

まずは突然10倍になった、後期高齢者医療保険から調べることにしました。

(1) 後期高齢者医療保険

保管していた郵便物を確認すると、確かに2018年7月、「後期高齢者医療保険料額決定通知書」という書面が届いていました。

熟読した結果は次のとおりです(父が住む地域の事例であり、全国共通というわけではありません)。

  • 後期高齢者医療保険の保険料額(1年分)は、基本的には2つの要素の合計である。
    保険料額 = ①所得割額+②均等割額

  • ①所得割額は、基本的には前年の所得をもとに計算される。
    前年の総所得金額-基礎控除額(33万円)= 賦課のもととなる所得金額

    賦課のもととなる所得金額×所得割率(今年度は7.89%)= ①所得割額

  • 父の場合の①所得割額:
    平成29年分 確定申告書B 第一表の「所得金額合計」1,514,050円
    -33万円
    = 賦課のもととなる所得金額1,184,050円

    1,184,050円×7.89% = ①所得割額93,421円

  • ②均等割額は、基本的には全員一律である(今年度は41,000円)

  • 父の場合の保険料額:
    ①所得割額93,421円+②均等割額41,000円
    = 保険料額134,400円[100円未満切り捨て]


なるほど。仕組みはわかりました。

さらに過去3年分の決定通知書を探し、見比べてみました。

  平成27年 平成28年 平成29年度 平成30年度
賦課のもとと
なる所得金額
971,850 1,489,173 802,427 1,184,050
所得割額 72,208 118,091 63,632 93,421
均等割額 38,700 40,400 40,400 41,000
均等割軽減額 0 0 8,080 0
保険料額 110,900 158,400 95,900 134,400

 

  • 父の「賦課のもととなる所得金額」は不動産所得などによって変動します。
    これに連動して「所得割額」も増減していますが、少なくとも2倍などにはなっていませんので、これ自体に問題はなさそうです。

  • 平成29年度は、「賦課のもととなる所得金額(802,427円)が98万円以下だったので、均等割額から均等割軽減額(8,080円)が軽減された」とのことです。
    ちなみに平成30年度は、「賦課のもととなる所得金額(1,184,050円)がもし100万円以下だったら、均等割額から8,200円が軽減されるはずだった」とのことですが、均等割軽減額は、金額的にはあまり重要ではありません。

平成29年度 保険料額(1年分)95,900円 → 平成30年度134,400円(1.4倍)

なぜ、2ヶ月分4,200円が突然40,600円と、10倍になってしまうのか?



その理由は、「年度ごとの(1年分の)保険料が決まるタイミングと、その帳尻の合わせ方」にありました。

  • 年度ごとの(1年分の)保険料は毎年7月に決定、通知され、その年の4月にさかのぼり、翌年の3月まで適用される。
  • 保険料の納付は、原則、1年分を6回に分けて、公的年金から天引き(特別徴収)される方法で行う(公的年金は年6回、偶数月に給付される)。
  • ところが4月と6月の年金給付時、今年度1年分の保険料はまだ決まっていない。
    また、8月の年金給付時、今年度1年分の保険料は決まっているが、天引き額変更の事務処理が間に合わない(たぶん)。
    したがって、年度の前半、4・6・8月に給付される年金では、直前の2月と同じ額がとりあえず「仮徴収」される。
  • そして年度の後半、10・12・2月に給付される年金で「本徴収」される。
    このとき、1回ごとの本徴収の額は、
    (今年度1年分の保険料-「仮徴収」3回分の合計)÷「本徴収」の回数3回
    で算出される。


父の場合、

  • 平成29年度2月の「本徴収」額が4,200円だったので、平成30年度4・6・8月も、とりあえず4,200円で「仮徴収」された(3回合計で12,600円)。
  • 平成30年度1年分の保険料は134,400円に決まった。
  • 134,400円を徴収するためには、年度内に 134,400円-12,600円 = 121,800円 を徴収しなければならない。
  • 年度内の残りの年金給付は3回(10・12・2月)なので、1回あたりの「本徴収」額は 121,800円÷3回 = 40,600円 だ!

というのが、8月まで4,200円だった保険料が10月から突然40,600円になってしまったカラクリでした。

しかも、来年の8月まで40,600円という高い水準の天引きが続くことになります。

仮に、来年度1年分の保険料が今年度と同じになるとすると、

  • 平成30年度2月の「本徴収」額は40,600円なので、平成31年度4・6・8月も40,600円で「仮徴収」される(3回合計で121,800円)。
  • 平成31年度1年分の保険料が134,400円に決まるとする。
  • 134,400円を徴収するためには、年度内に 134,400円-121,800円 = 12,600円 を徴収するだけで足りる。
  • 年度内の残りの年金給付は3回なので、1回あたりの「本徴収」額は 12,600円÷3回 = 4,200円 だ!(あれ? 元に戻った)

「なんだかなー」と思いませんか?

で、今度は再来年の8月まで4,200円という低い水準の天引きが続くことになります。

そしてさらに、再来年度の保険料額も同じになるとすると...。

 

(2) 介護保険

続けて、介護保険も調べました。

後期高齢者医療保険と同じように、2018年7月に「介護保険料額決定通知書 兼 特徴開始通知書」という書面が届いていました。

3年ごとに保険料が改定されるようで、たまたま平成30年度が新たな期の初年度とのことです。

  • 保険料額(1年分)は13段階あります(「所得段階」というそうです)。
    所得と世帯(家族)の状況に応じて(生活保護レベルから超高所得者層まで)、いずれかの段階に区分され、それによって保険料額が決まります。

  • 父のように「本人が住民税課税」であれば、本人の前年の合計所得金額だけで保険料額が自動的に決まるという、比較的単純な仕組みです(父が住む市町村の場合、「本人が住民税課税」の平成30年度の保険料額は、所得に応じて75,030円から135,830円までの8段階でした)。 

なるほど。仕組みはわかりました。

ではなぜ、2ヶ月分8,900円が突然19,100~19,180円と、2倍になってしまうのか?



この理由は、お察しのとおり、後期高齢者医療保険と同様、「年度ごとの保険料が決まるタイミングと、その帳尻の合わせ方」にありました。

そのカラクリは後期高齢者医療保険とまったく同じです。

3. 私見

わかってみれば「なぁーんだ」とも思えますが、金銭的な余裕がある世帯はともかく、余裕がない高齢者世帯にとって、社会保険料の激変、ひいては公的年金の手取り額の激変は、ないに越したことはありません。

激変緩和のための改善(法改正)を要望します。 > 厚生労働省

たとえば、

  • 当年度4・6・8月の仮徴収額 = 前年度(1年分)の保険料額÷6回

に変更すれば、高齢者世帯の社会保険料の変動を、単純かつ合理的に抑制できると思います。
徴収者側の徴収額変更作業の頻度は、年1回(10月)から2回(4月と10月)に増えますが、公的年金の手取り額を平準化させたい高齢者世帯にとても喜ばれるのではないでしょうか。