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独立系FP 福嶋淳裕のブログ

年金開始を75歳に遅らせれば、受取額が約2倍に?

先週末、「公的年金の受取開始年齢を75歳まで『繰り下げ』できるよう、厚生労働省が検討に入った」との報道がありました。

誰もが影響を受けうる公的年金に制度変更があるのなら、その方向性は知っておいて損はありません。

要点を確認しておきましょう。 

なお、「公的年金の繰り下げ」についてそもそもご存じでない方は、以前簡単に紹介した記事がありますので、まずはそちらをご確認ください。

 参考記事:2018/12/27「ほぼ人生100年世代 の老後資金

 

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1. 現行の「繰り上げ・繰り下げ」制度の原則

  • 公的年金である老齢基礎年金および老齢厚生年金を「いつから(何歳何ヶ月から)受け取り始めるか」は、本人が自分の意思で決めて、日本年金機構に請求するものです(国が受取開始時期を一律に決めるものではなく、また、請求せずに送金が自動的に始まるものでもありません)。
    ただし、いつでも請求できるわけではなく、「60歳から70歳までの10年間」の中で、いつから受け取り始めるかを決めることになります。

  • 受取開始年齢の原則は65歳です。したがって、受取開始65歳の場合の年金の額(年額)が、いわば基準額ということになります。
    原則の65歳より早く受け取り始めたい場合(「繰り上げ」といいます)、繰り上げる月数に比例して、受け取る額が減ります(亡くなるまで、減った額が続きます)。割愛しますが、繰り上げには他のデメリットもあり、通常はおすすめできません。
    逆に、受取開始年齢を66歳以降に遅らせると(「繰り下げ」といいます)、繰り下げる月数に比例して、受け取る額が増えます(亡くなるまで、増えた額が続きます)。

  • 繰り上げる場合の減額率(%)は、0.5 × 繰上月数 です。
    【例:60歳から受取開始 → 0.5×60 = 年金の額が30%減額】
    「受取開始65歳で年額200万円の見込み」の人が60歳に繰り上げると「年額140万円」に

  • 繰り下げる場合の増額率(%)は、0.7 × 繰下月数 です。
    【例:70歳から受取開始 → 0.7×60 = 年金の額が42%増額】
    「受取開始65歳で年額200万円の見込み」の人が70歳に繰り下げると「年額284万円」に

  • 繰り上げは「老齢基礎年金と老齢厚生年金、同時繰り上げ」です。
    繰り下げは「老齢基礎年金と老齢厚生年金、別々に指定可能」です。

  • 受け取れる人が徐々に減っている「特別支給の老齢厚生年金」(生年月日と性別によっては、65歳前の一定期間、特別に支給される老齢厚生年金)については、繰り上げはできますが、繰り下げはできません。

2. 「繰り下げ」制度変更の方向性(今回の報道の要点)

  • 約1年前、2018年2月に閣議決定された「高齢社会対策大綱」において、政府は70歳超への繰り下げを認めることを検討する方針を示しました。

  • この方針を受け、受取開始年齢の上限である「70歳」を「75歳」に緩和する方向の具体的な検討がようやく始まる、という話です。

  • 厚生労働省は、2019年の夏から社会保障審議会で議論し、2020年のうちに関連法改正案の国会提出を目指す、とのことです。

  • 受取開始年齢を70歳超に繰り下げる場合は、増額率を70歳までの期間よりも引き上げ、年金の額をさらに増やす方向、と報道されています。
    たとえば、仮に70歳超の増額率が1ヶ月あたり0.8%になるとすると、受取開始75歳の場合、年金の額は90%増えることになります。
    【仮:75歳から受取開始 → 0.7×60+0.8×60 = 年金の額が90%増額!】
    「受取開始65歳で年額200万円の見込み」の人が75歳に繰り下げると「年額380万円」に

 


 

一般の方々に比べ、私は公的年金の制度変更に関する情報に接する機会に恵まれていますが、公的年金の受取開始年齢を「一律〇歳に引き上げよう」といった議論をこれまで見聞きしたことはなく、そのような方向の政治あるいは行政の機運はまったく感じられません。

繰り返しになりますが、公的年金の受取開始年齢は、以前から10年の期間(60~70歳)の中で本人が自由に選べるようになっています。

今回報道された制度変更の検討案は、平均寿命が延びる中、この10年間という制限を15年程度に緩め(60~75歳)、受け取り方の選択肢を広げよう、という話です。

繰り下げる場合の受取開始までの期間の支出(生活費)を、貯蓄・投資残高の取り崩しや、基礎年金・厚生年金「以外」の年金(企業年金個人年金など)、あるいは勤労所得などで賄えなる世帯であれば、繰り下げは、長生きリスクを軽減しうる魅力的な選択肢です(人生の終盤を自宅以外で過ごすことになったとき、入居施設をアップグレードできるかもしれません -笑)。

ただし、夫婦の場合、世帯によっては繰り下げないほうがよいケースもあるので注意が必要です。