確定拠出年金(DC)の出口戦略についての相談が増えてきました。
企業型DCで、従業員の入社時に遡って過去勤務期間分の退職金をDCに移行したケースでは、50代でDCの残高が1,000万円を上回っている方もいらっしゃいます。
額が額ですし、企業型DCは確定給付企業年金(DB)などと違って会社(や企業年金基金)が何もしてくれない完全自己責任の制度ですので、自分に合った、納得できる出口戦略を実行したいですよね。
前回の記事:
今回は、税金の影響について、年金で受け取る場合と一時金で受け取る場合を比較してみます。
1. 受け取り方
(2) 税金の影響を考える
① 年金で受け取る場合
i. 所得税
DCの年金は、各種手数料のほかに、所得税(7.6575%)が暫定的に差し引かれて(源泉徴収されて)振り込まれます。
DCの年金は、DBの年金や公的年金と同様、所得税法上「雑所得・総合課税」ですので、正確な(最終的な)所得税は他の所得や各種の控除を加味して計算します。
具体的には、年が明けてからの確定申告で前年分の所得税を精算します(精算の結果、源泉徴収され過ぎた分があれば還付されます。確定申告しないと戻ってきません)。
ii. 住民税
確定申告の結果をもとに住民税が決定され、6月に通知されます(源泉徴収され過ぎた所得税があった場合、確定申告していないと住民税は本来よりも高く決定されます)。
② 一時金で受け取る場合
i. 所得税
DCの一時金は、各種手数料のほかに、所得税がかかる場合はそれも差し引かれて(源泉徴収されて)振り込まれます。
DCの一時金は、DBの一時金やその他の退職金と同様、所得税法上「退職所得・分離課税」ですので、所得税は退職した年分の退職所得だけで計算します。
具体的には、一時金の請求後、所得税がかかるかどうかを運営管理機関が計算し、かかる場合のみ源泉徴収されて振り込まれます(一般的には源泉徴収で課税関係が終了し、確定申告する必要はありません)。
所得税がかかる人はそれほど多くはありません。
退職所得は永年の勤労に対する所得ということで、退職に起因する一時金にかかる税金は、勤続年数が長い人ほどできるだけかからないよう、非常に大きな非課税枠(退職所得控除額)が設けられているためです。
たとえば、退職時の勤続年数が38年の場合、退職所得控除額は2,060万円ですので、2,060万円までの一時金は非課税です。
一時金が退職所得控除額を超過してしまう場合でも、超過の全部ではなく半分に対して「所得税の税率」が適用されます(超過の半分は非課税です)。
計算式の原則は次のとおりです。
詳しくは、国税庁HP「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」「No.2260 所得税の税率」をご覧ください。
ii. 住民税
所得税がかかる場合、一律10.0%の住民税も併せて源泉徴収されます(所得税がかからなければ住民税もかかりません)。
- 住民税 = 退職所得 × 住民税率10.0%
今回の(やや乱暴な)まとめ
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年金で受け取る場合の税金の影響は、2通りの考え方があります。
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一時金で受け取る場合の税金の影響は、
- 一時金を予想する(ただし、リスク資産が混じる場合、正確な予想は困難)
- 退職予定時点の勤続年数をもとに、退職所得控除額を算出する
- 「一時金 ≦ 退職所得控除額」なら税金はかからない
- 「一時金 > 退職所得控除額」の場合、所得税・住民税を算出する
というステップで比較的簡単に計算できます。
近年の厚生労働省の調査結果にみられる「DCやDBでは、(おそらくは税金がかからないからという理由で)一時金で受け取る人が多い」という傾向に対し、私個人は、企業年金の実務経験上、次のように感じています。
- せっかく終身年金を受け取れるにもかかわらず、目先の課税回避だけを優先して一時金を選択する残念な人が多すぎる
- 金融リテラシーに自信がない人(下記★「おまけ」ご参照)は、一時金で受け取らないほうが安心なのでは? (余計なお世話ですが -笑)
次回は、「いつ(からいつまで)受け取るのか?」についてまとめてみます。
★ おまけ
金融リテラシークイズ(5問)