8月14日、政府は、厚生年金保険料の算出基準である「標準報酬月額」の上限を62万円から65万円に引き上げる政令を公布しました。
どのような人に、どのような影響があるのでしょうか?
見ていきましょう。
1. 厚生年金保険料の仕組み
会社員などが毎月の給与から天引きされる「厚生年金保険料」の額は、どのように算出されるのか、その仕組みを簡単におさらいします。
まず、給与の額(いわゆる額面)が「厚生年金保険料額表」のどの「等級」に該当するかによって「標準報酬月額」が決まります。
たとえば、給与が29万円以上31万円未満の場合、標準報酬月額は19等級の30万円です。
次に、この標準報酬月額に保険料率(18.3%)を掛け、その人の厚生年金保険料の額が算出されます。
厚生年金保険料は全額個人負担ではなく、事業主(会社など)と被保険者(従業員など)が折半で負担します(これをご存じない方は、けっこういらっしゃいます)。
この折半された額が被保険者個人分の厚生年金保険料として給与明細書に記載され、給与天引きの形で個人が負担している、という仕組みです。
2. 標準報酬月額の等級を一つ追加
標準報酬月額は現在31等級ありますが、9月1日に1等級増え、合計32等級となります。
整理すると次のとおりです(1等級から30等級までは変わらないため割愛します)。
- 現在の標準報酬月額
31等級 62万円(給与が 605,000円以上) - 2020年9月1日以降の標準報酬月額
31等級 62万円(給与が 605,000円以上 635,000円未満)
32等級 65万円(給与が 635,000円以上)
標準報酬月額の上限は、厚生年金加入者(被保険者)全体の平均標準報酬月額のおおむね2倍になるように設定されます。
2016年度末以降、平均標準報酬額が約32万円となる状況が続いていたそうで、「その状態が継続する認められるときは、その年の9月1日から改定できる」という厚生年金保険法の規定に基づき、今回見直されることになりました。
等級区分の見直しは政令で実施します。
3. 影響
これまで、給与(月額)が60万5千円を上回る人、たとえば100万円とか200万円とか、あるいは1,000万円!の人でも、その人が支払う厚生年金保険料は給与が60万5千円の人と同じであり、かつ、将来受け取る(その月の分の)厚生年金の額も同じでした。
その月の分の給与だけで考える場合、厚生年金に関する負担と受益は給与60万5千円が上限という意味です。
本年9月分からは、この上限が給与63万5千円に引き上げられます。
給与が63万5千円未満の人にとっては、良くも悪くも影響はありません。
給与が63万5千円以上の人は、支払う保険料が増えるとともに、将来受け取る(その月の分の)年金も増えることになります。
- 給与が63万5千円以上の人は、毎月の負担が2,745円増える
- 仮に20歳から40年間、従来の上限で保険料を納め続ける場合と、新たな上限で保険料を納め続ける場合を比べると、新たな上限のほうが受給額は年8万円程度増える
2017年度末時点で約4,400万人いる厚生年金加入者のうち、約290万人(7%弱!)が上限の月額62万円に該当しているそうで、このうち一部の人が62万円にとどまり、多くの人が新しい上限の65万円に移るとみられているそうです。
厚生年金は、死ぬまで受け取れる終身年金であり、老後資金の大黒柱です。
今回の等級追加は、給与が63万5千円以上の人にとっては朗報ですね。
「給与63万5千円まで、あともう少し!」という方は、さらに頑張ってみてはいかがでしょうか。