リタイアメントプランニングに関するテーマで私が講師をするとき、話のネタの一つとして総務省の家計調査年報(家計収支編、貯蓄・負債編)をよく使います。
最新の家計調査年報(2020年版)では、「高齢夫婦無職世帯の家計収支」に注目すべき変化が表れていました。
調査対象の表現:
2020年版の家計調査年報(家計収支編)では文言が変更されました。
- 2019年版まで
高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上,妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯) - 2020年版
65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)
「夫婦高齢者無職世帯(高齢夫婦無職世帯)の家計収支」と
「世帯主が65歳以上の無職世帯の貯蓄現在高(二人以上の世帯)」の推移:
+ 実収入 (月額) |
- 非消費支出 (月額) |
- 消費支出 (月額) |
= 過不足 (月額) |
金融資産 残高 (万円) |
|
2016(H28)年 | 212,835 | 29,855 | 237,691 | ▲54,711 | 2,350 |
2017(H29)年 | 209,198 | 28,240 | 235,477 | ▲54,519 | 2,337 |
2018(H30)年 | 222,834 | 29,092 | 235,615 | ▲41,872 | 2,233 |
2019(R1)年 | 237,659 | 30,982 | 239,947 | ▲33,269 | 2,218 |
2020(R2)年 | 256,660 | 31,160 | 224,390 | +1,111 | 2,292 |
2017年版の家計調査年報の一部は、その後、2019年6月3日付け「金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書(高齢社会における資産形成・管理)」に引用され、次のように説明されました。
- 65歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯で2,252万円となっている。
- 不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取崩しが必要になる。
平均像としては、「65歳時点で2,252万円持っているので、人生100年を見据え、毎月約5万円取り崩し、交際費や教養娯楽費、交通費などに充てている」と解釈できます。
手元の貯蓄・投資残高を計画的に取り崩しているだけで、大きな問題は感じません。
- 家計調査年報であれ、金融庁の報告書であれ、平均的な60代夫婦が2000万円持っている事実は容易に読み取れます。
ところが、R党のR氏などが収支上の不足額だけを切り取り(約5万円×30年=約2000万円)、国会で「政府は国民に2000万円貯めろというのでしょうか?」などと騒いだため、「2000万円」だけがひとり歩きしてしまいました(「はい。実際貯めていますが...」と突っ込みたいところです)。
まぁそれはそれとして、上の表をもう一度ご覧いただくと、「過不足」の列、不足額(金融資産の取り崩し額)は毎年縮小し、2020年はプラス(剰余・黒字=金融資産を取り崩す必要なし)に転じました。
他方、世帯主が65歳以上の無職世帯の貯蓄現在高(二人以上の世帯)は、上の表のとおり2,292万円あります。
ということは、
「リタイア後の夫婦世帯は、2千数百万円の金融資産を取り崩して暮らしている」
という統計上の平均像が、
「リタイア後の夫婦世帯は、2千数百万円の金融資産を取り崩さずに暮らしている
(将来、2千万円使って高級老人ホームに入居できるかもしれない)」
という平均像に変わってしまったことになります。
「実収入」「非消費支出」「消費支出」の増減傾向は次のとおりです。
- 実収入(年金+その他): 2017年を除き増加傾向
- 非消費支出(税+社会保険料): どちらかといえば増加傾向
- 消費支出(いわゆる生活費): 方向感なく増減※
※2020年の消費支出減少に関しては、新型コロナウイルスの影響があったのでしょう。
コロナ2年目の支出が反映される2021年版の家計調査年報はどうなるのか、興味深く待つことにします。