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独立系FP 福嶋淳裕のブログ

60歳から始める iDeCo

先月の記事の続きです。

  • 60歳定年後も同じ会社で働いている。65歳でやめる予定だがまだ数年ある。今からでもiDeCoを始めるべきか?
  • 50代後半の会社員で企業型DCの加入者。60歳になると企業型DC加入者ではなくなる。そのタイミングでiDeCoを始めるべきか?
  • 20~50代の会社員で企業型DCの加入者。会社はマッチング拠出を導入したが、まだ申し込んでいない。これからマッチング拠出を始めるのと、iDeCoを始めるのとどちらがよいか?

先月は三つ目を取り上げました。今回は一つ目と二つ目です。

 

 

一つ目と二つ目は、「60歳からiDeCoを始めるべきか?」という、ひとつの論点にまとめられます。

今後「資産所得倍増プラン」がどうなるかによって検討の前提が変わりますが、まずは現時点のルールを前提に、60歳からiDeCoを始める場合の留意点を列挙し、考えてみます。

 

前提(加入要件)

以下の要件のすべてを満たす人は、60歳以上65歳未満までの最長60カ月、原則としてiDeCoに加入できます(特に一つ目が重要です)。

  • 国民年金の第2号被保険者または任意加入被保険者であること。
  • iDeCoの老齢給付金を受給したことがないこと。
  • 特別支給の老齢厚生年金を請求できる人の場合、本来の年齢より前に繰り上げていないこと(「本来の年齢」は性別・生年月日により異なる)。
  • 老齢基礎年金または老齢厚生年金の請求(原則65歳)を65歳より前に繰り上げていないこと。

 

留意点

  • 加入者期間(掛金を拠出できる期間)は最長5年と短いため、加入者期間中に出口戦略(計画的な現金化=安全資産へのスイッチング)を実行する時間的余裕はあまりない。
  • 給付の請求タイミングは、
    ①計画的な現金化を行わず、65歳到達時(または加入要件を満たさなくなったとき)に給付を請求する
    ②65歳以降(または加入要件を満たさなくなったとき以降)に計画的な現金化を実行し、75歳到達までに給付を請求する
    の両極端の範囲内で検討することになる。
  • iDeCoは全期間を通じ、各種手数料は自己負担である(塵も積もれば山となる)。
  • 税制上、iDeCoがNISAよりも優れている点は
    ①拠出時非課税(小規模企業共済等掛金控除)と
    ②給付時税制優遇の可能性(退職所得控除または公的年金等控除)
    であるが、②の恩恵の有無は個人によって(他の退職所得や年金収入によって)異なるため、①を優先して考慮する。

 

考察

  • 掛金を拠出できる(積立できる)期間の短さ
  • iDeCo特有の手数料
  • 給付を、いつ請求するつもりか、
    どのように請求する予定か(一時金か年金か)
  • NISAや特定口座での投資(積立)を併用するか否か
    iDeCoが金融資産運用のメインになるのか、全体の一部に過ぎないのか)
  • そもそも、60代前半の収支計画において、積立投資する余裕があるのか

これらをどう考えるかによって、「60歳からiDeCoを始めるべきか?」の判断が分かれます。

全員共通の正解を提示すること、あるいは、いくつかのパターンに分けた正解を整理することは、残念ながら現時点ではできませんでした。

 

資産所得倍増プランの行方を見定めるまでは、ひとまず、上記「留意点」の四つ目(①小規模企業共済等掛金控除)に焦点を当てて判断するのがシンプルな基準なのではないかと思います。

  • 小規模企業共済等掛金控除の恩恵を受けられるのは、所得税・住民税を課税される人に限られる。
  • iDeCoに加入することにより、その年分の所得税や翌年度の住民税を小規模企業共済等掛金控除でどの程度減らせる(節税できる)のかは個人によって異なるため、年・年度ごとに試算してみないとわからない。
  • 試算の結果、
    節税額の予想合計 > iDeCo手数料の予想合計
    となることを明確に期待できるとしたら、iDeCoへの加入に経済的な合理性がある。
    「60代前半の数年間、所得税・住民税の節税目的でiDeCoに加入し、安全資産(元本割れしない定期預金など)のみで運用する」という方針もありうる。

 


 

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