6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022(通称、骨太の方針2022)」を受け、業界団体による提言や所管官庁による要望が出揃ったようです。
今回はNISAの制度変更に関する概況をまとめてみました。
6月7日:「骨太の方針2022」抜粋(太字修飾は福嶋が付加)
第2章 新しい資本主義に向けた改革
1.新しい資本主義に向けた重点投資分野
(1)人への投資と分配
(「貯蓄から投資」のための「資産所得倍増プラン」)
投資による資産所得倍増を目指して、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充や、高齢者に向けたiDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革、国民の預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設など、政策を総動員し、貯蓄から投資へのシフトを大胆・抜本的に進める。
NISAについての私、福嶋の要望は、6月10日に投稿したように、
- 時限措置を撤廃し制度の恒久化を!
時限措置を残したままでは不安(またはロールオーバーが面倒)。制度の恒久化を。 - つみたてNISAでも新NISAでもなく、一般NISAへの原点回帰(制度一元化)を!
何を買うかは自由に選べるべき。
2024年1月に始まる予定の新NISAは、2階建て化により仕組みが複雑になる(改正というより改悪)。
誰もがわかりやすいシンプルな一般NISAに原点回帰する方向で、NISA制度を一元化して欲しい。
の2点でした。
その後、日本証券業協会が7月20日に発表した「中間層の資産所得拡大に向けて ~資産所得倍増プランへの提言~」と、金融庁が8月31日に発表した「令和5(2023)年度税制改正要望について」をざっくり比べると下表のとおりです。
6月10日 |
8月31日 |
|
---|---|---|
制度の恒久化(および非課税保有期間の無期限化) | 同左 | 同左 |
一般NISAへの一元化 | つみたてNISAと一般NISAの一体化・簡素化 |
つみたてNISAを基本としつつ、一般NISAの機能を引き継ぐ「成長投資枠(仮称)」を導入 |
非課税投資枠の拡大(つみたてNISAは60万円、一般NISAは240万円、合計300万円程度に) |
年間投資枠を拡大 非課税限度額の拡大 |
原文の抜粋を以下に引用しておきます(太字修飾は福嶋が付加)。
Ⅲ.具体的な施策の提言
1.投資家の裾野の拡大~NISAの抜本的な拡充と実践的な投資教育の推進
(1)NISA制度の改善
①制度の見直し
イ.制度の恒久化…
制度の恒久化と併せて根拠法(NISA法(仮称))を制定
ロ.制度の簡素化…
(イ)つみたてNISAと一般NISAを併用可能とすること(複数の時限措置が並立する今の仕組みを一体化・簡素化したうえで、つみたてNISAと一般NISAを併用可能とすること)
(ロ)非課税保有期間の無期限化又は大幅延長(これによりロールオーバーの手間をなくし、長期保有しやすくすること)
ハ.利便性の向上…
(イ)年齢要件の撤廃(未成年も利用可能に)
(ロ)投資対象商品の拡大(例:つみたてNISAの対象指数に、ダウ・ジョーンズ工業株価平均等の海外の主要株価指数や、GPIFが採用しているESG指数等を追加)
ニ.非課税投資枠の拡大…
NISAのモデルとなった英国ISA並の金額とすること(例:つみたてNISA 40万円→60万円、一般NISA120万円→240万円、合計300万円程度)
②制度利用促進策
イ.職場つみたてNISAの奨励金非課税措置
ロ.給付型の資産形成支援措置(例:つみたてNISAの利用状況に応じてマイナポイントを付与するなど、給付型で資産形成を支援)
NISAの抜本的拡充【事項要望】
【要望のポイント】
簡素で分かりやすく、使い勝手のよい制度に
- 制度の恒久化
- 非課税保有期間の無期限化
- 年間投資枠を拡大し、弾力的な積立を可能に
- 非課税限度額の拡大(簿価残高に限度額を設定)
- 安定的な資産形成を促進する観点から、長期・積立・分散投資によるつみたてNISAを基本としつつ、一般NISAの機能を引き継ぐ「成長投資枠(仮称)」を導入
※非課税限度額の内枠として、①既に積み上げた資産(預貯金)によるキャッチアップ投資や、②企業の成長を応援するため、上場株式や一定の商品性を持った株式投信等への投資を可能とする- つみたてNISAの対象年齢を未成年者まで拡大
※ジュニアNISAは、予定通り2023年末で新規買付終了【要望案のイメージ】
- つみたてNISA
・年間投資枠(40万円)を拡大
・非課税限度額(800万円)を拡大
対象商品は、長期の積立・分散投資に適した株式投信- 成長投資枠(仮称)
・年間投資枠を別途設定
・非課税限度額を内数として設定
対象商品は、上場株式や一定の商品性を持った株式投信等
報道によれば、金融庁は8月25日の自民党財務金融部会で令和5年度(2023年度)税制改正要望案を正式に提示し、「部会では賛同が相次いだ」そうです。
そして8月31日、金融庁から財務省への税制改正要望提出となりました。
年間投資枠および非課税限度額の拡大幅、新NISAの刷新(「成長投資枠」への衣替え)などの詳細は、与党税制調査会の議論を経て年末までに決まるものと思われます。
「制度の恒久化(非課税保有期間の無期限化)」「投資枠の拡大」については、やや意外なことに、期待できそうな気配がただよってきました。
他方、「誰もがわかりやすい単純な制度設計(一体化・簡素化)」についてはまだなんともいえません。「つみたてNISA部分を使わない人には、一般NISA部分は使わせない」という、新NISAで導入するはずだった「2階建て化によるつみたてNISAの強要」が残るのだろうと懸念しています。
もっとも、制度の恒久化(非課税保有期間の無期限化)だけでも、実現すれば大きな前進です。
今後も動向を観測し、投稿していきます。
関連記事:
2022-06-10 資産所得倍増プラン
2021-05-01 NISAの改正動向