個人投資家は「期待リターン」をどのように推計または入手したらよいのか? についてまとめてみました。
複数のアセット・クラス(資産の種類、分類)を組み合わせたポートフォリオ運用においては、アセット・アロケーション(アセット・クラスごとの配分比率)が運用成績の9割を決定づけます。「配分比率 w」は、「標準偏差 σ」「相関係数 ρ」「期待リターン μ」を基に検討し、自分が納得できる比率を設定します。運用開始後は、実際の比率が目標と大きく乖離しないよう、適宜リバランスしていきます。
- 標準偏差(リスク)σ
値動きの過去データから計算した標準偏差は、未来の値動きの予想にも「非常に有用(quite useful)」。 - 相関係数 ρ
過去のデータから計算した相関係数も、未来予想に「かなり有用(reasonably useful)」。 - 期待リターン μ
一方、過去データから計算したリターンは、未来を予想する期待リターンとしては「ほとんど役に立たない(virtually useless)」。
過去リターン(実績)が期待リターン(予想)として「ほとんど役に立たない」のなら、個人投資家は期待リターンをどのように推計または入手したらよいのでしょうか?
期待リターンを自分で推計することは不可能でしょう。となると、
- 「ほとんど役に立たない」前提で過去リターンを流用する。
- 個人投資家も閲覧できる(公開された)期待リターンを利用する。
のいずれかになります。
1. 過去リターン(と標準偏差)は、さまざまな金融情報系ウェブサイトなどで閲覧できます(過去リターン、標準偏差、相関係数は、自分で計算することもできます)。
2. 個人投資家も閲覧できる(公開された)期待リターン(および相関係数)としては、次のようなものがあります(これら以外をご存知でしたら、教えてください)。
(1) GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
・5年ごとに見直される(最新版は2020年4月1日から適用中)。
・標準偏差、相関係数、期待リターンが25年に揃った値である。
・対象は「国内債券、外国債券、国内株式、外国株式」に限定。
・入手先:
第4期中期目標期間における基本ポートフォリオ
基本ポートフォリオの変更について(詳細)
p.9 基本ポートフォリオの前提条件(期待リターンの設定)
【期待リターン(名目リターン)】
・1年ごとに更新される(最新版は2023年12月第1週に公開)。
・10~15年の投資期間を推計した値である。
・対象は豊富で、株式だけでも15種類(債券、オルタナティブもある)。
・入手先:
2024 Long-Term Capital Market Assumptions
通貨別の期待リターンのマトリックス(PDF版)
日本円
ちなみに「国内株式」と「外国株式」の期待リターンを転載すると次のとおりです。
対象 | GPIF | J.P.モルガン |
---|---|---|
国内株式 |
5.6% TOPIX(配当込み) |
6.7% 日本大型株式 |
外国株式 |
7.2% MSCI ACWI(除く日本、 |
5.1% 世界株式 除く日本、 |
これまた悩ましいですね...。「アジア株式、中国株式など、細かいアセット・クラスで検討したい」という人にはJ.P.モルガンが向いているでしょう。「TOPIX、MSCI ACWI、NOMURA-BPI、FTSE世界国債インデックスの4種類あれば十分」という人であれば、GPIFの方が資料が読みやすいと思います。