12月、師走です。
個人投資家に決算や財務報告の義務はありませんが、所得税や住民税、人によっては社会保険料などへの影響を考えると、所得税の課税期間である1月1日から12月31日までの1年間、つまり「暦年」が、個人投資家にとって事実上の事業年度(会計期間)である、といえるでしょう。
であれば、「決算日は12月31日」ということになります。
個人投資家の中でも、年金基金などの機関投資家と同じように、現代(近代)ポートフォリオ理論に則って金融資産を長期運用している方であれば、自分なりの「モニタリング」を実施し、必要と判断したときに「リバランス」を実施していることと思います。
年金基金は運用益に税金がかかりませんが、ご存じのとおり個人は運用益に税金がかかります。
税金はコストの一種であり、コストはリターンを確実に減らします。
したがって、個人が金融資産を効率よく運用していくためには、少なくともある程度、できれば徹底的に、税金(節税)を考慮して運用する必要があります(「ある程度」か「徹底的に」かは、性格によって異なります... 笑)。
今回は、私が人様(ひとさま)に「師走モニタリング」と称してレクチャーしている内容を紹介します。
紹介する内容は、株式やETFなど特定口座で売買できる金融商品はもちろん、株価指数先物やFXなど「雑所得・分離課税」系の金融商品にも当てはまります。
ただし、簡単化のため、「取引・保有する金融商品は投資信託だけである」として記述します。
株式, ETF, 株価指数先物, FXなどを取引・保有している方は、適宜読み替えてください。
ご注意:
- 紹介する内容は、ソーシャルレンディングや仮想通貨など「雑所得・総合課税」系の金融商品には当てはまりません。
- 紹介する内容は、「『上場株式等の譲渡』などについて確定申告する」ことにつながります。
もし、あなたが被扶養者の場合、確定申告するとその内容によっては、扶養者(配偶者・親など)の減収や増税につながったり、自ら社会保険料を納める義務が生じたりすることもありえますのでご注意ください(判断できない場合、税務署, 市町村, 税理士, 社会保険労務士, FPなどへの相談をおすすめします)。
1. 師走モニタリングとは
師走モニタリングとは、節税(とリバランス)のための売り注文(または売買同時注文)を指図するかしないかの判断材料を得ることを目的として、私が12月上旬から中旬にかけて行っているモニタリングです。
他の時期に行うモニタリングとまったく異なるので、「師走モニタリング」と命名しました(笑)。
「目先ないし3年以内の節税」が主な目的のため、
- 節税に関心がない方には無意味です。
- 「近い将来(目先ないし3年以内)」の節税を優先することにより、「遠い将来(老後に取り崩しが必要になったときなど)」の納税額を増やすことになるかもしれないリスクまでは考慮していません。
また、年によって、次の2パターンがありえます。
- 前年分の確定申告の結果、または前年分の確定申告をしていないため、
繰り越した損失がない - 前年分の確定申告の結果、
繰り越した損失がある(申告書第三表(88)「翌年以後に繰り越される損失の金額」がある)
今回は前者を取り上げ、後者は次回にします。
2. 師走モニタリングの流れ[繰越損失がない場合]
私は、売り注文または売買同時注文を指図するかしないかをクリスマスイブまでの最終営業日に判断し、判断の結果に応じて15時までに指図しています。
もっとも、繰越損失がない場合、作業開始の下記(1)で終わる年がほとんどです。
(1) 課税口座(特定口座, 一般口座)に、評価損が発生している投資信託があるか?
- ない → 師走モニタリングはここで終わりです。お疲れ様でした(笑)。
- ある → (2)に進みます。
(2) その年の1月から12月中旬までの期間、課税口座で売却した投資信託があれば損益を通算する
複数の金融機関を利用していて、複数の課税口座で売却取引があれば、それらすべての損益を通算します。
「源泉徴収なしの特定口座」や「一般口座」ではなく、「源泉徴収ありの特定口座」を(または「源泉徴収ありの特定口座」も)ご利用であれば、税金の天引きや税金の戻りがなかったものとして損益を通算してください。
(3) 上記(2)の損益通算の結果は?
- 利益も損失も出ていない(この期間に課税口座で売却していないケースを含む)→ (4)に進みます。
- 損失が出ている → この場合も(4)に進みます。
- 利益が出ている → (5)に進みます。
(4) 評価損が発生している投資信託を売却することで損失を発生させたいか?(または損失を増やしたいか?)
あえて損失を発生させて(または損失を増やして)その損失を繰り越すことにより、翌年以後3年以内に利益を確定する年分の税金を減らすことを期待する【将来の節税効果を期待したいか?】、という意味であり、確定申告が必須となります。
- いいえ → 終了です。
- はい → 3.に進みます。
(5) 評価損が発生している投資信託を売却することで所得を減らすかゼロにしたいか? さらには損失を発生させたいか?
あえて損失を発生させて所得を減らすかゼロにすることにより、その年分の税金を減らすかゼロにする【節税したいか?】、さらには損失を発生させて繰り越す【将来の節税効果を期待したいか?】、という意味であり、確定申告が必須となります。
- いいえ → 終了です。
- はい → 3.に進みます。
3. 売り注文または売買同時注文
(1) 期限
クリスマスイブまでをめどに注文指図します。
終わったら、年末年始の休暇モードに入りましょう(笑)。
(2) 売り注文
課税口座で評価損が発生している投資信託を「全額売却」指図します。
売却の結果、この投資信託が属するアセットクラス(資産区分)の配分比率が配分目標に対してどうなりそうかを計算し、乖離が生じる場合(普通は生じます)、配分目標との超過額または不足額がいくらになりそうかを計算します。
- 売却することによって、今まで超過していた配分比率の超過が減り、配分目標に近づく場合
→ 終わりです。お疲れ様でした。 - 売却することによって、今まで超過していた配分比率の超過が不足に転じ、配分目標を下回る場合
→ (3)に進みます。 - 売却することによって、今まで不足していた配分比率の不足がさらに増える場合
→ この場合も(3)に進みます。
(3) 買い注文
「買付(購入)」指図します。
「全額売却」と同じ日の15時までに指図する点がポイントです(売りの日と買いの日が異なることによる価格変動リスクを回避します)。
もし、同じ日に買い注文を出すための資金が足りない場合は、価格変動リスクを受容し、売却した分の預り金を使えるようになる日まで待つことになります。
4. まとめ
条件が揃えば、最大で次の効果を得られます。
- リバランス効果により、ポートフォリオ全体のリスク(標準偏差)をアセットアロケーション策定当初の水準に近づける、または戻すことができる
- その年分の税金を減らす、またはゼロにすることができる
(もちろん、「上場株式等の譲渡」所得などに起因する税金だけです) - 翌年以後3年以内に利益を確定する年分の税金を減らすことができる
(同じく、「上場株式等の譲渡」所得などに起因する税金だけです)
初めての方は、評価損を実現損として確定する行為に抵抗があるかもしれませんが、次のような主に税務上のメリットがあることを理解できれば、納得いただけると思います。
- リバランス効果を得るとともに節税できることがある
- 投資信託を売ると同時に買い戻すことによって、資産配分を変更することなく、将来の節税効果を期待できることがある
- より低コストな投資信託に乗り換えることによって、ポートフォリオの期待リターンをその分向上させるとともに、資産配分を変更することなく、将来の節税効果を期待できることがある
また、合理的なメリットとまではいえませんが、「目障りな評価損の画面表示を瞬間的に消せる」というメンタル面の効果もあります(笑)。
売買同時注文の場合は買付単価が低くなるので、「評価益が出始めるまでの待ち期間を短縮できる可能性が高まる」ことは確かです。