会社員・公務員は公的な個人年金制度である「国民年金基金」に加入できないため、国民年金基金は自分に無関係と思っている人や、そもそも存在を知らない人が多いようです。
実際には、定年などで60代前半に会社員・公務員を引退する場合、多くの方は国民年金基金に一定期間加入することができます。
また、扶養されている配偶者、いわゆる専業主婦(夫)の場合、自分が60歳になったとき、世帯主が会社や役所でまだ働いていても、国民年金基金に一定期間加入できる方が多いはずです。
したがって、60歳前後の方にとって、国民年金基金は選択肢の一つになりえます。
ただし、本人が60代前半に国民年金に任意加入できることが前提です。
会社員・公務員、あるいは専業主婦(夫)が60代前半、国民年金に一定期間任意加入しようとするとき、同時に国民年金基金にも加入するとしたら、国民年金基金に関する収支はどうなるのでしょうか。
単純なケースを想定し、計算してみました。
設例:「夫が会社員である専業主婦の妻」を想定します。
- 主人公(私)はまもなく60歳になる女性。
- 私は20歳到達後、就職するまでの1年間、国民年金に加入していなかった(当時、学生の加入は義務ではなかった)。
- 就職後、同年代の会社員と結婚して退職。
以降、いわゆる専業主婦(ときどきパート、アルバイト)。 - 私が60歳になったあとも、夫はしばらく会社員を続ける予定。
- 私は60歳になったら国民年金に1年間任意加入し、自分の老齢基礎年金を満額にするつもり。
- その1年間は付加保険料(付加年金)も支払い、終身で受け取れる年金を少しでも増やしたい。
- 他方、その1年間、国民年金基金に加入するという選択肢もあることを最近知った。
国民年金基金の掛金はすぐに調べられたが、自分の場合(60歳の1年間だけ加入する場合)の受取額がわからない。 - なお、私は個人型確定拠出年金(iDeCo)や民間の個人年金商品に関心がない。
問い:
- 主人公が60歳到達月、国民年金基金のA型(15年保証期間付終身年金)に1口加入する場合、支払う掛金の合計はいくらか?
- その結果、主人公はいつからいつまで、いくらの年金を受け取れるか?
資料:
https://www.npfa.or.jp/system/R3%20panfus.pdf
解き方:
- ・60歳0月の女性が国民年金基金のA型に1口加入する場合の掛金は
月額23,750円[資料 p.10]。
・主人公のケースでは、加入可能期間は1年間(12カ月)。
・したがって、支払う掛金の合計は285,000円。 - ・受け取り開始は65歳[資料 p.2]。
・1口目は終身年金なので[資料 p.6]、
65歳から亡くなるまで受け取れる。
・主人公のケースでは、年金額の計算は次のとおり[資料 p.10]。
(1) 加入時年齢60歳0月の1口目の年金額 = 60,000円
【5年間加入できる場合、年額6万円受け取れるという意味】
(2) 加入時年齢61歳0月の1口目の年金額 = 47,640円
【主人公の場合は1年間(12カ月)しか加入できないため、
12カ月支払った直後である13カ月目の行の値を参照する】
→ 受け取る年金額 = (1) - (2) = 12,360円
計算を終えて:
60歳の1年間に28万5千円支払い、65歳から終身で年12,360円受け取る、という計算結果でした。
直截な表現でいえば「元が取れるのは88歳になったとき」です(税・社会保険料への影響がないものとして)。
285,000円 ÷ 12,360円 = 23.06(年)
受け取り開始65歳 + 23年 = 88歳
「元が取れるのはおおむね平均寿命の頃」ともいえますので、60歳になってからの加入を検討する方にとっては、絶妙な、といいますか、なかなか悩ましい制度設計です。
さて、設例の主人公はどう判断するのでしょうか?
- 何歳まで生きるのか、何歳で死ぬのかわからない。
最終的にPPK(ピンピンコロリ)であれ、認知症や寝たきりになるのであれ、判断能力が正常な今のうちに終身の不労所得を少しでも多く確保しておきたい。
長生きリスクに備えるため、付加年金はやめて国民年金基金にしよう。 - 掛金上限まで口数を増やして加入したとしても、加入可能期間が短いので受取額は年に数万円。
申込から死後まで何度か発生する手続きの手間を考えると、あまり魅力はないのかも...。
付加年金はさらに微々たる額だが受け取り開始後2年で元が取れるし、老齢基礎年金と一体化して繰下げ増額できるし、国民年金基金はやめておこう。
国民年金基金は、個人型確定拠出年金(iDeCo)や各種NISAと異なり、支払う掛金に応じて将来の受取額が確定するため、運用成績を気にする必要がありません。
加入時年齢、加入可能期間、「型」の選択、2口目以降との組み合わせ等々により、元が取れる年齢は異なりますので、興味のある方は計算してみましょう。