公的年金・私的年金の法改正項目が順次施行されるなか、次のような話題をちらほら聞くようになりました(法改正については文末の関連記事をご参照ください)。
- 60歳定年後も同じ会社で働いている。65歳でやめる予定だがまだ数年ある。今からでもiDeCoを始めるべきか?
- 50代後半の会社員で企業型DCの加入者。60歳になると企業型DC加入者ではなくなる。そのタイミングでiDeCoを始めるべきか?
- 20~50代の会社員で企業型DCの加入者。会社はマッチング拠出を導入したが、まだ申し込んでいない。これからマッチング拠出を始めるのと、iDeCoを始めるのとどちらがよいか?
今回は、三つ目の話題を取り上げます。
企業型DC加入者のほとんどは、法令および勤務先の人事制度の制約によりiDeCoに加入できません。
2022年10月からは、法改正により、これまでiDeCoに加入できなかった企業型DC加入者も、要件を満たせばiDeCoに加入できるようになります。
金融機関によっては事前受付をすでに開始しています。
「私は企業型DCの加入者。会社はマッチング拠出を導入したが、まだ申し込んでいない。これからマッチング拠出を始めるのと、iDeCoを始めるのとどちらがよいか?」と聞かれたらどう答えるか、まとめてみました。
1. 企業型DC加入者のiDeCo加入の要件
2022年10月以降、企業型DCの加入者がiDeCoに加入するには次の三つの要件すべてを満たす必要があります。この確認がまず必要です。
- (その人の)企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金が拠出限度額の範囲内であること
拠出限度額については、面倒なルールが相変わらず残ります。
その人が、次の二つのタイプのいずれかによって、iDeCoの掛金の上限(拠出限度額)や、そもそもiDeCoに掛金を拠出できるか否かが決まります。
①「企業型DC」と「DB等」の両方に加入している人の場合、
(DB等 = 確定給付企業年金[DB]、厚生年金基金、石炭鉱業年金基金、私立学校教職員共済)
企業型DCの事業主掛金が月額15,500円以内なら、iDeCoの掛金の上限は月額12,000円です。
事業主掛金が15,500円を超えると、iDeCoの拠出限度額はその分減ります。
事業主掛金が22,500円を超えると、iDeCoに掛金を拠出できません!
②「DB等」に加入しておらず「企業型DC」に加入している人の場合、
企業型DCの事業主掛金が月額35,000円以内なら、iDeCoの掛金の上限は月額20,000円です。
事業主掛金が35,000円を超えると、iDeCoの拠出限度額はその分減ります。
事業主掛金が50,000円を超えると、iDeCoに掛金を拠出できません!
なお、10月になると、企業型DCの加入者向けサイトに(その人の)iDeCo拠出限度額が表示される見込みです。 - (その人が)企業型DCの加入者掛金拠出(マッチング拠出)を選択していないこと【マッチング拠出か、iDeCoか、いずれも利用しないかの三者択一です】
- (その人の)企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金が月単位の拠出であること
(任意の月にまとめての拠出=年単位の拠出、でないこと)
2. 企業型DC加入者でマッチング拠出を利用できる人は、マッチング拠出を利用するべきか、iDeCoに加入するべきか?
- 一般的にはマッチング拠出をおすすめします。
企業型DCであれば、マッチング拠出を含め、申し込み時や加入中に手数料がかからないからです(事業主が負担します)。
掛金拠出時の税制優遇は、マッチング拠出とiDeCoに違いはありません(いずれも所得控除[小規模企業共済等掛金控除]の対象です)。
違いがあるのは投資信託のラインナップです。もし、勤務先の企業型DCに良質な投資信託が少ない場合でも、そこそこまともなものが一つでもあれば目をつぶりましょう。
・特定口座 = 制約がない代わりに課税されるメイン口座
NISA口座、DC = 制約がある代わりに節税できるサブ口座
・特定口座+NISA口座+DC(+安全資産)= 自分のポートフォリオ
と考えます。
- 例外的には、「事業主掛金が少額(たとえば、月額2,000円など)」であり、かつ「事業主掛金より多い掛金を自分で出せる(出したい)」というケースがあります。
マッチング拠出の掛金は事業主掛金を超えてはならないというルールがあるため、このような人は、自分で出せる掛金の限度額が多いiDeCoのほうがよい、という判断もできます。
手数料はかかるものの、勤務先の企業型DCよりも
・良質な投資信託を取り揃えた金融機関
・受け取り方の選択肢が多い金融機関(終身年金も選べるなど)
を自由に選ぶことができるでしょう。
関連記事:
2021-04-11 私的年金の改正動向