確定拠出年金(DC)の出口戦略についての相談が増えてきました。
企業型DCで、従業員の入社時に遡って過去勤務期間分の退職金をDCに移行したケースでは、50代でDCの残高が1,000万円を上回っている方もいらっしゃいます。
額が額ですし、企業型DCは確定給付企業年金(DB)などと違って会社(や企業年金基金)が何もしてくれない完全自己責任の制度ですので、自分に合った、納得できる出口戦略を実行したいですよね。
相談のテーマは次の2つに集約できます(個人型DC[iDeCo]の場合も、回答の趣旨は同じになります)。
- 受け取り方
(1) 年金で受け取るのか(いつからいつまで受け取るのか)
(2) 一時金で受け取るのか(いつ受け取るのか) - リスク資産の取り扱い
年金または一時金を請求する直前まで、あるいは年金の受け取り中も、
(1) リスク資産(元本変動型商品)の運用を続けるのか
(2) 安全資産(元本確保型商品)にスイッチングするのか
すべてのパターンを網羅すると1冊の本の分量になりかねませんので、主に次のような方を想定し、できるだけシンプルに(例外もある前提で、やや乱暴に)何回かに分けてまとめていきます。
前提:
- 現在、DCだけでなく、特定口座や各種NISA口座でもリスク資産を運用している
- DC加入者資格の喪失後(ほとんどの人の場合、60歳到達後)、DCの残高を、借入金の一括返済やその他の高額な支払いに充てる予定はない
(これ以外のパターンは、リクエストしてください)
初回は、DCの受け取り方として、終身年金, 確定年金, 一時金の違いを見ていきます。
1. 受け取り方
(1) 受け取れる年金の種類を確認する
① 終身年金を選択できる場合
「終身年金」での受け取りを選択できる方はラッキーです。
何歳まで年金を受け取ると、そのときまでの受け取り総額が一時金を上回るかどうかは気になりますが、認知能力の低下や身体の衰えに関係なく「何歳まで生きてしまうかわからない」社会において、終身年金に勝る老後資金の支えはありません。
一方で、終身年金での受け取りは、税・社会保険料、医療費や介護費の自己負担割合の増加につながる可能性もあります。
- 税・社会保険料: 現在のルールで今後の数10年間を試算することはできますが、将来の制度変更の結果どうなるか、予測することはできません。
- 医療費や介護費: いつ、いくらかかるのか、あるいはさほどかからないのか、予測することはできません。
したがって、
i. 現在のルールで税・社会保険料を試算して(医療費・介護費への影響は無視して)、終身年金を選ぶか否か検討する
ii. 税・社会保険料、医療費・介護費への影響は無視する
のいずれかを選ぶことになるでしょう。
- i. の場合は、ご自身で大まかに試算するか、または専門家(税理士と社会保険労務士)に正確な試算を委託してください(ただし、現在のルールでの試算しかできませんし、ルールは少しずつ変わっていきます)。
- ii. の場合は、「終身年金」が最有力候補になります。
② 終身年金を選択できず、確定年金か一時金かを選択する場合
ほとんどの方はこのパターンでしょう(私もそうです)。
まず、確定年金の受け取り期間が何年かを確認します(「5・10・15・20年から選択する」など、規約によってさまざまです)。
確定年金は、残高を年金の受け取り期間(年数)で割って、分割で受け取るイメージです。
i. 確定年金または一時金を請求する時点で、残高のすべてを安全資産で運用している場合
確定年金を選んで安全資産の残高を取り崩していく場合、残高に対するわずかな利息が付きます。
しかしながら、各種手数料が本人負担の場合、利息より各種手数料のほうが大きいでしょうから、加入者資格の喪失時(ほとんどの人の場合、60歳到達時)、ただちに一時金で受け取るほうが金額(いわゆる額面)的には有利になるはずです。
とはいえ、ざっくりといえば、i. の場合、いわゆる額面の総額は、確定年金と一時金はおおむね同額と考えてよいでしょう。
ii. 確定年金を請求する時点で、また、確定年金の受け取り中も、リスク資産の運用を続ける場合
リスク資産の値動きに応じて受け取り額も変動しますので、i. のように単純に考えられません。
このあとのテーマである「2. リスク資産の取り扱い」と併せて検討することになります。
今回の(やや乱暴な)まとめ
- 終身年金で受け取れる人は、「終身年金」を選択すべき
・長寿化の進行(人生100年時代)
= 何歳まで生きてしまうかわからない
・配偶者, 子, 親族に金銭的な負担をかけたくない
→ 終身年金の受給権はできるだけ多く確保しておきたい - 終身年金で受け取れない人の「確定年金と一時金の選択」については、
・安全資産100%の場合、額面では大きな違いはない
・リスク資産が混じる場合、将来の運用成績次第なので、優劣の判断は難しい
次回は、税金の影響についてまとめてみます。